はじめに
最近投資界隈では、来年から始まる新NISAの話題で持ちきりです。ネットをみていると、「新NISAは神制度なので、万人が利用すべき」というトーンの記事ばかりですが、新NISAを利用しない方がよい人もいると思います。今回はそのことについて書いてみたいと思います。
なお、以下で書く内容は、投資経験者であれば当たり前と思われるような内容ですが、あまりにも昨今、新NISAに対して万能感を持っている人が多いと感じましたので、あえて記事にしてみました。
私の両親について
私の両親は、父親(87歳)、母親(79歳)ともに、これまで数十年に亘って投資を行っています。投資が日常生活の一部になっています。以前父親に、「新NISAは利用しないのか?」と聞いてみたところ、「旧NISAも利用しておらず、新NISAを利用する考えはない。そもそもNISA制度自体に魅力を感じない」との回答でした。これはどうしてでしょうか?
新NISAのデメリット
両親はともに、日本株の短期売買をしています。投資信託は保有しておらず、個別株のみを売買しています。ある程度継続保有しているのは、株主優待を目的とした銘柄のみで、大半の銘柄は短期間で売買しています。
個別株の短期売買を行う場合、全ての売買取引で利益を出すことは不可能です。損失も出しながら、トータルでのプラス額を最大化することを目指しているわけです。このような投資スタイルでは、「頻繁に売買できること」や、「損益通算(利益と損失を相殺することによる、税金の減額)できること」が重要になります。
この点NISA口座は、頻繁に売買することができません。1年間の購入枠が決まっており、その枠を使ってしまうと、たとえ銘柄を売却したとしても、購入枠が復活するのは翌年です。NISA口座では長期継続保有が前提となっており、短期売買向きではありません。
また、NISA口座で損失を出しても、損益通算ができません。投資未経験者は投資で損失を出すことは100%悪だと考えがちですが、損失を出すことは、必ずしも100%ネガティブなことではなく、メリットもあります。企業経営でもそうだと思いますが、「損金として計上できる」ことは、時として大きなメリットになります。この点で、NISA口座では利益に課税されない反面、損益通算することができず、損失を利用することができません。
要するに父親は、新NISAでは、短期売買や損益通算ができないので、「魅力を感じない」と言っていたのです。
おわりに
もちろん、両親が既に高齢であるということも、新NISAに魅力を感じていない背景にあると思います。新NISAは非課税期間が無期限であり、長期運用することが前提になっているからです。ただ、仮に父親が若いころにNISA制度があったとしても、投資スタイルに合わないので、使っていなかったと思います。
私はなにも、投資初心者が個別株の短期売買をすることを勧めているわけではありません。ですが、投資初心者だからといって、「必ずインデックスファンドの長期投資をしないといけない」というわけでもないと思います。人の好みはそれぞれです。リスクを知ることは大切ですが、その上で「自分は個別株の短期売買がしたい」ということであれば、それもアリだと思います。そんな人にとっては、新NISAはお勧めできません。
投資といっても、人によってその目的は異なります。「資産形成を目的として投資している人」もいれば、「投資という行為そのものを楽しんでいる人」もいます。両親は後者です。新NISAは明らかに前者のための制度であり、後者のための制度ではありません。ご自身の投資目的を振り返ってみて、新NISAの利用に向いていないということであれば、利用する必要は全くありません。「新NISAは利用しないと損」などという同調圧力に屈する必要はないのです。