はじめに
今年も「3月11日」を迎えました。みなさんも、「3月11日」については、いろいろ思うところがあるのではないでしょうか?
私の「3月11日」
13年前の2011年当時、私は会社員として忙しい毎日を送っていました。「3月10日」には、山形県にある、取引先の工場に訪問していました。工場を見学させていただいた後、取引先の社長と会食がありました。
出張の際、いつもは自分で予約した安いビジネスホテル(1泊5,000円前後)に泊まるのですが、このときは、取引先が温泉旅館を取ってくれていたこともあり、楽しく深夜まで飲んでいました。今でもよく覚えているのですが、会食終了後に徒歩で旅館に帰る際の道には、かなり雪が積もっていました。
翌朝の「3月11日」には、朝早い山形新幹線で東京に戻り、そのまま出社して事務仕事をしました。地震があった午後3時前にも、ビルの5階にあるデスクで仕事をしていたのですが、大きな揺れで社内が騒然としました。免振装置のあるビルだったのですが、ビルが倒れるのではないかと思うほどの強い揺れでした。
終業時間を待たずして、帰宅してもよいことになったのですが、電車が動いておらず、とりあえずは夜までオフィスにいました。その後、一部区間で運転が再開され、なんとか自宅に帰ることができました。後に聞いた話では、会社に泊まった社員も結構いたようです。
自宅では棚が倒れており、物が散乱していましたが、家族や自分に怪我がなかったことは何よりでした。それにしても、山形新幹線その他の電車は、地震後には運休になりましたので、午前中に山形から戻って正解でした。もし午後に帰っていたら、何日か東京に戻れなかった可能性があります。
取引先のこと
「3月10日」に訪問した取引先とは別の会社ですが、当時担当していた取引先の中に、飲食業や宿泊業を営んでいる会社がありました。料理人出身のたたき上げ社長が、夫人(副社長)と二人三脚で創業した会社で、社長、副社長、社長長男(専務)の3人で経営する、いわゆる同族企業ですが、売上高数十億円、経常利益数億円を安定的に計上している、業界の中でも高収益企業でした。
その会社は当時、社運をかけて、新たな宿泊施設の開業準備を進めており、年商に匹敵する資金を複数の銀行から借り入れて(シンジケートローン)、2010年12月にようやく宿泊施設が完成し、私も完成記念式典に参加しました。施設はその地域の一等地に立地しており、大広間から大海原が見える絶景のロケーションだったのを覚えています。建設地がただの森だったころから知っていましたので、ようやく完成までこぎつけたということで、私が何をやったわけでもないのですが、感無量でした。
それまでも、その会社は別の場所で宿泊施設を運営していたのですが、団体客が減少し、個人客へのシフトが見込まれる中で、顧客ニーズに合わない面が出てきていました。新しく建設した宿泊施設は、個人客向けに特化した高価格帯の施設で、各部屋に露天風呂がついているような高級な施設でした。今でこそ、部屋に露天風呂がある旅館は珍しくありませんが、2011年当時はあまりなかったのではないでしょうか?個人客向けの高級路線という方向性は、今考えても正しいものでした。
しかし、不運だったのは、施設が完成したわずか数か月後に、東日本大震災が発生したことです。その施設は海沿いに立地していました。高台にあったため、津波の被害を受けることはありませんでしたが、海産物に対する風評被害等もあり、震災後は顧客が確保できず、計画が大きく狂ってしまいました。銀行借入の返済をしていかなければなりませんが、それもままならない状況になってしまったわけです。電力会社からの補償金等も入りはしましたが、焼け石に水でした。
実は、その会社がその後どうなったのか、詳しくは知りません。といいますのは、震災1か月後の4月には、人事異動で担当を外れてしまったからです。ただ、事業意欲の旺盛な社長でしたし、私と同世代の後継者(専務)も、とてもしっかりした方でしたので、難局を乗り越えてうまくやっていけていると信じています。
久しぶりにその施設のホームページを検索してみたところ、通常通り営業しているようです。運営会社も取引先の社名のままでしたので、引き続きあの3人が経営しているのではないでしょうか。ひょっとすると息子が社長になっているかもしれません。機会があれば、宿泊してみたいと思っています。
おわりに
幸運なことに、私や家族は震災で大きな被害を受けることはありませんでした。ただこれは運がよかっただけであり、誰もが被害を受ける可能性はあったと思います。
今年も「3月11日」を迎え、「人生というものは、ある出来事によって一変してしまうことがある」ということを改めて認識しました。良い方向に変わることももちろんありますが、その逆もあるわけです。
毎日生活していると、刺激がないことに物足りなさを感じることがありますが、「何事もない平穏な毎日が続くこと」が、いかにすばらしく、貴いことなのかを、日々噛みしめながら過ごしていきたいと思いました。
東日本大震災で被害に遭われた方に、心よりお見舞い申し上げます。